お金に関する本を読み漁り、YouTubeのお金系チャンネルの動画を見まくる。NISA口座を開設し、毎月のバイト代からインデックスファンド(オルカン)をコツコツ積み立てる。
ここまでは、投資を始めた人なら誰もが通る「王道のステップ」だと思う。自分も例に漏れずそのレールに乗り、日々の家計管理にはマネーフォワードMEやMoneyTreeを導入した。
だが、実際に積立投資を始めてみると、多くの人が直面する壁にぶつかることになる。
「モチベーションを維持するのが、めちゃくちゃ難しい」 という問題だ。
日々の細かな値動きを見ては一喜一憂し、大学の友人と投資やお金の話をする機会なんてまずない。完全に一人きりで、何年も先の見えないゴールに向かって淡々と積み立てを続けなければならない孤独感がある。
マネーフォワードMEの資産画面を毎日更新して眺めては、「確かに増えてはいるけれど、自分の将来はどうなるんだろう……」と物足りなさを感じていた。
Excelでちまちま計算シートを作るのも面倒だったため、GoogleのAIエージェント「Antigravity」を頼り、自分の頭の中にある理想を詰め込んだ「自分専用のお金ダッシュボード」をWebアプリとして自作してみることにした。
複利運用のシミュレーションツールは、ネット銀行だけでなく金融庁のサイトなどにも用意されている。だが、実際に使ってみると強い物足りなさを感じていた。
一番の理由は、「大学生から社会人への移行」というライフステージの変化に対応したシミュレーターが存在しないことだ。
投資をしている人の多くは社会人なので、ニーズが少ない学生向けのツールが作られないのは当然かもしれない。しかし、大学生と社会人ではお金の流れがまったく違う。
- 大学在学中: フルタイム勤務ではないため、学期やテスト期間はバイト代が減り、夏休みは増える。手元の現金を少しずつ取り崩しながら生活費や旅行代に充て、残りを投資に回す
- 就職後(社会人): フルタイム勤務になり、毎月入るお金が安定する。給与から天引きで積立額を増やし、年間を通じた計画を立てやすくなる
一般的なシミュレーターのように「毎月定額を30年間積み立てる」という前提は、学生のリアルな生活には当てはまらない。
自分が本当に欲しかったのは、単なる数字の記録ではなく、「お金を貯めて増やすプロセスを、人生ゲームのように楽しめる仕組み」 だった。

そうして開発したのが、ブラウザ上で動作する自分専用のダッシュボードだ。
ソフトウェア開発では「要望」「要求」「要件(実現手段)」を整理することが大切だが、今回は以下のように頭の中を整理してAntigravityに伝えた。
- 要望(システムへの期待):
- お金を貯めること自体をゲーム感覚で楽しみたい
- ネット上のシミュレーションでできない細かいシミュレーションをしたい
- 要求(機能への期待):
- データを手入力しないで一括でインポートできるようにしたい
- 外部にデータを送信せずに安全に使いたい
- 「学生時代・社会人の投資額」「各資産ごとの利回り」「表示期間」を細かく設定したい
- 単純な複利計算だけでなく、市場のブレを考慮したリアルな将来予測を見たい
- 要件(実装仕様):
- マネーフォワードMEから出力したCSVを読み込む→手入力なしで資産を可視化
- 「学生時代・社会人」で期間や投資額を切り替える→対応した設定画面・シミュレーションの表示
- 外部サーバーに個人データを送信しない、完全ローカルで動くHTML/JavaScriptファイルとして実装
普段使っているマネーフォワードMEのCSVをドラッグ&ドロップするだけで、その場でグラフが生成される。一度作って終わりではなく、使っていく中で欲しい機能を見つけては時折アップデートを重ねている。
ダッシュボードには、お金の本を読み進める中で「自分の資産状況なら、こういう見せ方がほしい」と感じた工夫を詰め込んでいる。
ネット上の一般的なシミュレーターは「年利5%で一直線」のような単純計算しかできず、将来の振れ幅(リスク)が見えない。
そこで、乱数を用いて何百パターンもの相場展開を一瞬でシミュレーションする「モンテカルロ法」を組み込んだ。
「相場が良い場合(上位10%)」「平均的な場合(中央値)」「相場が最悪の場合(下位10%)」という3つのシナリオをグラデーション帯として画面に表示させている。最悪のケースでも手元にどれくらい残るのかを想定できるため、過度な期待も不要な不安も抱かずに済むようになった。
在学中はバイト代から無理のない範囲で投資し、社会人になったらしっかり稼いで投資額を増やす。この切り替え設定を可能にした。
もちろん、就職後の収入や生活費なんて数年先のことなので正確には分からない。あくまで「目安」に過ぎないが、現実味のある前提でシミュレーションを回すことで、「今のバイト代からこれだけ投資に回せば、将来こう繋がっていく」という実感が湧き、日々のバイトを頑張るモチベーションに直結する。
なお、画面上のボタン一つで「2028年3月の大学卒業まで」に期間をズームする機能もつけた。卒業までの短い期間であれば、手元資金の推移もかなり高い精度で予測できる。
FIRE(経済的自立と早期リタイア)という概念は、もともと「生活費を投資の配当や運用益だけで賄い、自分の時間を自分の手に取り戻す」という思想から生まれたものだ。
このダッシュボードでは、現在の総資産から得られる想定リターンが、生きていくための最低限の生活費(月10万円)をどれだけカバーできているかを「FIRE達成率(%)」として表示している。
「FIRE率 10%」なら、「1ヶ月のうち約3日は、資産が代わりに働いて生活費を稼いでくれている」ということになる。資産額の多寡を見るよりも、「自分の自由な時間が確実に増えている」という手応えを直感できる。
メイン機能のほかにも、当面の目標である「資産1000万円達成」までにあと何年かかるかを自動計算する欄や、お気に入りの本から選んだ言葉をランダムに表示するカードなど、モチベーションを保つための仕掛けをいくつか配置している。
ダッシュボードを自作したからといって、自分の性格が一変したわけではない。もともと物欲は少ない方だったが、日々の行動や感情の面で確かな変化があった。
資産形成の初期フェーズにおいて、FIREに一番直結するのは「入金力(働いて稼ぎ、投資に回すお金)」だ。
忙しいバイトのシフトに入っているときでも、「今日働いた分を投資に回せば、将来の自由な時間がまた数日分増える」「FIRE率が少し上がる」と頭の中で換算できるようになり、バイトでお金を稼ぐこと自体を前向きに捉えられるようになった。
マネーフォワードMEで淡々と支出を眺めていた頃に比べ、日々の生活を「人生ゲーム」として楽しめている感覚がある。
投資を始めた人が陥りがちな悩みに、「お金を使うことに罪悪感を覚えてしまう」という問題がある。物欲がない自分も、せっかくの大学生活なのに節約に縛られ、貴重な経験を逃してしまうのではないかという恐れがあった。
しかし、ダッシュボードで卒業時や将来の数字を細かく逆算してみて、ある事実に気づいた。
「大学時代に旅行をすべて我慢して投資に回したところで、1000万円に到達する時期は数ヶ月程度しか早まらない」
数ヶ月の短縮のために、今しかできない友人との旅行や思い出をすべて捨てるのは、どう考えても割に合わない。
この費用対効果を論理的に納得できたことで、過度な節約への不安が綺麗に消えた。もちろん無駄遣いには注意しつつも、大好きな旅行にはしっかりと予算を確保し、行きたいときに気持ちよくお金を使えるようになった。
(※ちなみに、自分が実践している旅行計画の立て方については、別の記事「弾丸旅行でも計画が破綻しない、Notionで行う「旅行情報のストック術」」でも詳しく書いている)
自分にとって、お金を貯めることは人生の「目的」ではない。
自分の人生をゆるく楽しく、自由に生きたい。そのための手段としてお金を貯めているのであって、資産形成を我慢ばかりの苦行にはしたくない。
そして、Antigravityを使ってツールを作ったこともまた、そのための手段の一つに過ぎない。
「マネーフォワードMEを眺めているけれど、モチベーションが続かない」 「一般的なシミュレーションでは、自分の生活に合わなくてピンとこない」
同じような悩みを抱えている人は、AIの手を借りて「自分専用のモチベーション維持装置」を作ってみてはいかがだろうか。
投資という長い道のりを、我慢の連続ではなく「自由を買い進めるゲーム」に変えるための心強い味方になってくれるはずだ。
